札幌高等裁判所 昭和32年(う)87号 判決
被告人 佐藤愛子
児童福祉法第三四条第一項第六号にいう淫行させる行為の客体たる児童とは、満一八歳に満たない者であることを要しかつこれをもつて足るものであること同法第四条の規定に照し明らかなところであつて、たとえ、該児童が他と婚姻をしているからといつて、それが民法上成年に達したものとみなされるのはともかく、これを別異に取扱う筋合のものではないから、これと異なる見解に立つての所論は、すでにこの点においてその前提をかくこととなるので到底採用するを得ない。
児童福祉法第三四条第一項第六号にいう児童に淫行させる行為とは、一八歳未満の年少者を直接または間接に強制して淫行させる場合だけでなく、かかる年少者に対して淫行の場所を提供してその便益をはかり、その結果淫行をなすに至らしめた場合も包含するものと解すべきところ、原判決挙示の証拠によれば被告へは、なるほど当初はE子を女給として雇入れたものとうかがえるけれども、しかし、右証拠をよく検討すると、被告人は、もともとその経営する飮食店「一松」で雇つた女に客をとらせて売淫をさせていたのであり、原判示の日頃、すでに雇入れた右E子からの申入にも容易に応じて同女に同所の一室を淫行の場所として提供し、夜具を貸与するなどしてその便宜をはかり、原判示期間同女をして売淫をなすに至らしめたことが認められるから、被告人のかかる所為が前記法案にいう児童に淫行をさせる行為に該当すること前説示に照して明らかである。もつとも、被告人が右行為に出るにあたり、E子を満一八歳以上と信じその一八歳未満の児童であることを知らなかつたことは前掲証拠によつてもうかがい得られるところであるが、しかし、児童の年齢を知らなかつたことにつき更に過失のなかつたことを被告人において立証しないかぎりは処罰を免れないことも児童福祉法第六〇条第三項によつて規定されるところである。そしてかかる立証方法としては、単に本人の供述または身体の発育状況等外観的事情だけにとどまらず、さらに客観的資料として、戸籍抄本、食糧通帳もしくは父兄等について正確な調査を講じ、児童の年齢を確認する措置を採つたことを明らかにすべきを相当とするところ、本件にあつては、被告人は、E子の供述や、その身体の外観的発育状況ないし他と夫婦生活をしていたという点から同女を満一八歳以上と判断しただけで、記録をよく調べてみても、さらに進んで前説示のような年齢調査の方法を講じた形跡は少しも認められないから、被告人が本件児童の年齢を知らなかつたことについて過失がないということはできない。以上の次第により原判決がその挙示する証拠により原判示事実を認定して被告人を児童福祉法第三四条第一項第六号違反に問擬したのは相当であつて、原判決には所論のような違法はなく、論旨は理由がない。
(裁判長裁判官 羽生田利朝 裁判官 中村義正 裁判官 梶田幸治)